井上定期能 8月公演

公演日時:2019/08/24(土・SAT) 13:00~
主催:井上定期会
演目:
(能)隅田川 彩色       勝部延和
(狂言)成上り         茂山忠三郎
(能)安達原 黒頭       橋本光史
入場料:
5枚綴券    ¥17,500
前売券     ¥3,800
当日券     ¥4,000
学生券     ¥2,000

演目解説

隅田川 すみだがわ
 都からの旅人が、武蔵国隅田川の渡りに着き、渡し守に舟を乞う。その後から、こ れも都から我が子の行方を尋ねて下ってきた狂女が着く。狂女の子梅若丸は、人商人 にかどわかされて行方知れずとなり、母は狂気となって跡を追い東国隅田川の畔まで 辿り着いたのであった。狂女は「名にし負はば いざ言問はん都鳥 我が思ふ人はあ りやなしやと」という伊勢物語の歌をひいて都鳥に我が子の行方を問う。渡し守はこ の狂女を舟に乗せ、去年ここであった話を物語る。それは、人買いに連れられてきた 少年が、ここで力尽き亡くなったというものであった。今日はその一周忌に当り、憐 れんだ人々が大念仏を催す日であった。なんとこの狂女こそ、その少年の母であっ た。渡し守にとともに亡き子の塚へ行って念仏を唱えると、子の亡霊が影のように現 れ、母と言葉をかわす。しかしそのまぼろしは、夜明けとともに消え失せ、あとには 草の生い茂った塚があるだけであった。
 母親が子の行方を尋ねる曲は、現行曲に五曲あり、本曲以外の「百萬」「櫻川」 「三井寺」「柏崎」は、いずれも子供と再会しめでたく終るが、本曲は遂に生きてめ ぐり会うことのできない異例の能である。哀傷の中の哀傷といわれ、母の悲しさに満 ちた能である。

安達原 あだちがはら
 紀州熊野の山伏祐慶一行が、諸国行脚の途中、奥州安達原に着き、一軒家に宿を乞 う。女主人は、一度は断るが、是非にといわれ招き入れる。山伏が見馴れぬ枠桛輪に 興味を持つので、女は糸尽しの唄を謡いながら糸を繰る様を見せる。夜更けに、女は もてなしの焚火をするために、山へ木を取りに行くが、その際、帰るまで閨の内を見 るなと言い置く。あまりにくどく閨の内を見てはならぬと言って出かけたのを、かえ って不審に思った能力が、山伏の目を盗んで閨をのぞいてしまう。そこには人の死 骸が山と積んであり、一行は驚いて逃げ出す。山からの帰り道、のぞかれたことを 知った女は本性を現し、鬼女となって、約束を破ったことを恨み襲いかかる。山伏の 必死の祈りに、鬼女は祈り伏せられ、恨みの声を残して消え失せる。
 この曲は、人間の宿業の悲しさを描いた傑作といわれ、鬼女となるのは、約束を破 られたことへの失望と怒りによるものである。人は皆、孤独の秘密を持つものであり、 また人の秘密をのぞき見たいというのも人間の持つ本性であり、そういった人間の本性 を巧みに描いた名曲と言える。「黒頭」の小書(特殊演出)の節は、後シテが黒頭となり、 より感情の激しさを表わす。本曲は、「道成寺」「葵上」と共に〈三鬼女〉と呼ばれる。