夏の素謡と仕舞の会

公演日時:2024/07/14(日・SUN) 11:00~
主催:京都観世会
演目:
(素謡)盛 久       越賀 隆之
(素謡)井 筒       浦田 保浩
(素謡)鸚鵡小町      観世 清和
(素謡)海 士       片山 伸吾
入場料:
    一般前売   ¥4,500
    一般当日   ¥5,000
    学  生   ¥2,500

    ※通信講座受講生、放送大学、老人大学は一般料金です。

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演目解説

盛久 もりひさ
 源氏に捕らえられ都から鎌倉へ護送される事になった平盛久は、長年信仰する清水寺への参拝を願い出、観音菩薩へ今生の別れをします。逢坂山を越え瀬田の橋を渡り、熱田の浦を過ぎ富士の山の雪を拝み、箱根を越え鎌倉へ。明日までの命と知らされた盛久は心静かに観音経を読誦するなか、不思議な告げを夢の中に見ます。翌朝、経を手にした盛久は由比ケ浜に引き出され最期の時を迎えると、経からの霊光に太刀取りの目は眩み、取り落とした太刀が二つに折れます。この事を聞いた頼朝は――清水から汝の為にやってきた、安心せよ――と老僧が告げた霊夢を盛久が見た事を知り、この夢を頼朝自身も見ていたという奇跡に盛久を許し盃を与えます。『平家物語』を題材に、東海道下りの叙景描写、経の読誦、奇跡の処刑場面等を通して死に臨んだ鎌倉武士の男気を描きます。観世十郎元雅作。
井筒 いづつ
 筒いづつ井筒にかけしまろがたけ 生ひにけらしな妹見ざる間に――これは『伊勢物語』に出てくる平安の貴公子在原業平が有常の娘に送ったプロポーズの和歌。幼い頃井戸の井筒で背比べしてあなたと遊んだ私も、少し会わずにいる間に随分背が高くなりました(そろそろ結婚してください)。娘は、――比べ来し振分髪も肩過ぎぬ 君ならずして誰かあぐべき――比べ合った振分髪も長くなり肩を過ぎました。あなた以外の誰のためにこの髪を結い上げましょうか、と答え、二人は結ばれますが、やがて夫は別の女のもとへ通うようになり、妻はそれでも愛する夫を待ち続けます。
 世阿弥が渾身の作であるこの曲を「上の花なり」と自ら評価しているように、和歌が多く取り入れられた詞章は中身が濃く、全編を通して、夫への募る愛情が豊かに表現されています。古典文学に書かれた日本語の美しさが際立つ一曲です。

鸚鵡小町 おうむこまち
 近江国(現大津市)が舞台。和歌の道を愛する時の帝・陽成院は、歌を選び集めようと思い立ちますがなかなか名歌が集まりません。そこで、かつて並びなき和歌の名手であった小野小町のもとへ新大納言行家を向かわせます。芙蓉(蓮の花)にたとえられるほど美しかった小町ですが、今は貧しい暮らしの百歳の老女。目は霞んで文字も定かに見えず、帝が行家に託した和歌を行家が読んで聞かせます。――雲の上は ありし昔に変わらねど 見し玉簾の 内やゆかしき―― 宮廷は今も恋しいかと尋ねる歌。歌を詠む気力も失せていた小町でしたが、鸚鵡返しの古法で返歌し、行家に歌の道を語ります。そして往時の栄華を懐かしみ、かつて見た在原業平の舞い姿を追憶し、懐旧の舞を舞います。やがて日暮れとともに帰ってゆく行家を見送ると、小町は杖にすがりつつ庵に帰るのでした。
海士 あま
 藤原不比等の世継ぎ房前の大臣は、母親が讃州(現香川県)志度の浦の房前で亡くなったと聞き、追善のため志度の浦までやってきます。そこへ一人の海士が現れ、唐の高宗の妃となった不比等の妹が興福寺へ三種の宝を送ったところ、その中の面向不背の明珠がこの沖で龍神に奪われた物語を語り始めます。不比等は身をやつしてこの浦に下り、海士少女と契り一子をもうけ、明珠を奪い返すことが出来たらこの子を世継ぎにすると海士に約束し、海士は命がけで海に入り、明珠を奪い返したというのです。さらに自分が海士の霊であることを名乗り、回向を乞いながら波間に消えます。房前が回向をしていると、海士が龍女となって現れ、法華経の力で成仏できたことを喜びます。命がけで海に入り我が子のために明珠を奪い返す様子を語る場面は鬼気迫るものがあり、聴く人を魅了します。

出演者紹介
CAST

越賀 隆之
Koshika Takayuki
日本能楽会会員

浦田 保浩
Urata Yasuhiro
日本能楽会会員

観世 清和
Kanze Kiyokazu
日本能楽会会員

片山 伸吾
Katayama Shingo
日本能楽会会員